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最高裁判所第三小法廷 昭和35年(あ)2120号 判決 1963年11月12日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人満園勝美、同佐藤淳の上告趣意第一点について。

所論の点に関し、原審の是認した第一審判示第一事実の要旨は、被告人はその免許を受けて第二種自動三輪車の運転の業務に従事していたものであるが、判示の年一月六日午後七時三〇分頃から判示父の家で清酒三合位及びウイスキー一合位を飲み、少しく酒に酔って同日午後八時四五分頃同所から判示被告人の自宅に向け、酒気を帯び自動車を正常に運転できない虞があり、更に酔が回って前方注視などが困難となり正常運転ができなくなる状態であるのに予め休息して酔の醒めるのを待つことなく、あえて前記自動三輪車を運転して、判示四ツ木橋を経て同日午後九時二五分頃旧四ツ木橋通り方面から大和ゴム踏切方面に向け判示本田二一七番地先路上にさしかかった際、前方注視義務を怠たり漫然直進したため、前方右側道路上に設置してあった街路灯に自車を衝突させてしまい、あわてて(急停車措置を講ずることもせず)把手を左方にとられたため、折柄自転車に乗って対向して来た楠留蔵に自車の前部を衝突するに至らしめ、因って同人を路上に転倒させた上同人に判示の傷害を負わせたものであるというにあると解される。(被告人は右判示第一の如く四ツ木橋を経て判示本田二一七番地先路上にさしかかり、前方注視義務を怠たり自車を楠留蔵に衝突させ傷害を負わしめる約五分前に、判示自動車を運転して四ツ木橋上を進行中、別人長谷川義夫の運転する普通乗用車自動車の右側面に自車を衝突させて、長谷川運転の自動車を判示の通り損壊しながら、道路における危険の防止その他交通の安全を図るため必要な措置を講じないでその場を去った、というのが判示第二事実である。)

所論は判例違反をいうが、論旨引用の当裁判所第一小法廷決定は事案を異にし必ずしも本件に適切でない。按ずるに、右認定事実第一のうち、判示自動三輪車の運転の業務に従事していた被告人が、酒に酔い正常な運転ができない虞があるにかかわらず、自動三輪車を運転した行為は道路交通取締法二八条一号、七条一項(二項三号)に、また業務上過失傷害の行為は刑法二一一条前段、罰金等臨時措置法二条、三条にそれぞれ該当するところ、右二個の行為は刑法四五条前段の併合罪の関係にあると解するのが相当であるから、原判決のこの点に関する結論は相当であり、論旨は採用することができない。

同第二点について。

所論は、道路交通取締法二八条一号、二四条一項違反の罪は道路交通の安全が侵害された場合にのみ成立する旨主張し、これを前提として原判決の憲法三一条違反をいうもので、その実質は単なる法令違反の主張にすぎず刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(道路交通取締法は、道路における危険防止及びその他の交通の安全を図ることを目的とするものであるが、同法による犯罪の成立には、必ずしも道路における交通の安全が侵害されたという結果の発生を要するものではない。被告人が判示第二事実のとおり、道路上において自動三輪車を運転進行中長谷川義夫の運転する普通乗用自動車の右側面に自車の前部を衝突させてこれを損壊した場合においては、加害者である被告人としては同法二四条一項、同法施行令六七条一項所定の必要措置を講ずべき義務あること勿論である。けだし、道路上で右の如き自動車損壊を起した場合に、これをそのまま放置してその場を去るときは、一般的に、道路における危険の防止、交通の安全か阻害される虞があるといえるからである。本件の場合、被告人は損壊事故発生後、すべからくその場にあって速やかに右自動車損壊の原因、状態、これによる何らかの人的、物的損傷ないし道路交通の安全に対する具体的危害の存否、程度及びその救済方法等につき、可能なかぎり右被害自動車の操縦者とともに検査し、応急措置を講ずべきであったといわねばならない。もし当時被告人がかような措置に出ていて事故が被告人の自動三輪車運転の態度に起因することを知ったならば、約五分後に本件判示第一の事犯を起さなかったかも知れないとも考えられる。)

また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四一四条、三九六条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 河村又介 裁判官 石坂修一 裁判官 横田正俊)

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